掛け軸の主役はもちろん、書や画などの「本紙」です。
表具は、その本紙を魅力的に見せるための「衣装」として重要な役割を果たします。
本紙がいかに優れた作品でも、衣装となる表装が、本紙と合わなかったりすれば、その価値は伝わりにくくなります。
人によって合う服と合わない服があるように、作品に寄って合う表装、合わない表装があります。
例えば、仏画など礼拝の対象となるもの、通常本紙の上下にしかない『一文字』を左右にも廻らせて、一段と格式高く表具されます。
反対に、格式張らない書画は、『風帯』さえ省いたものもあります。
掛け軸の表装の違いは、洋服の礼服・スーツ・普段着に喩えると、わかりやすいです。
最も一般的で、基本となるのが真ん中の「行」の形です。
これよりも複雑な表具であれば、人間で言えば礼服。
簡素であれば、くだけた普段着だと思えばよいのです。
しかし、掛け軸には絶対の基準はありません。
ほとんどの場合、本紙を描く人と、表具をする人は別の人です。
表具には、本紙に対する表具師たちの想いや解釈が、思う存分表現されているのです。
掛け軸を見る時は、まず全体を見て、表具をした人の気持ちがどこに託されているのかを、探してみましょう。
床の間だけが飾り場所ではない
掛け軸は床の間に掛けるものと考えがちです。
しかし、床の間でなくても掛け軸は充分楽しめます。
掛け軸が生まれた中国には、床の間はありません。昔も今も部屋の壁に掛けていますし、かつては木の枝に掛けて鑑賞したこともあったそうです。
掛け軸というのは、それくらいの気軽な気持ちで楽しんでいただければと思います。
掛け軸を掛ける時、最も大切なことは、本紙の中心が、見る者の目線よりやや高い位置に来るようにすることです。
掛け軸は、あくまで見上げて「拝見」するものです。
椅子を使う洋間と、畳の和室では掛ける高さが違ってきますので、自在鉤などで高さを調節してください。
また、額縁の場合は吊り金具が見えないように気を配りますが、掛け軸は、むしろ金具を見せた方がいいとされています。しっかり吊ってあるという安心感が重要です。
掛ける際の5つのチェック
- 直射日光は掛け軸にあたりますか?
掛け軸にとって、直射日光は大敵です。掛け軸が色あせてしまったり、変型の原因となったりしますので、掛ける際は、ご注意ください。 - エアコンの風は、掛け軸にあたりますか?
掛け軸に、直接にエアコンの風は直接当たっていませんか?
極度の乾燥は、掛け軸の変型の原因となります。
- 金具類を無理に隠そうとしていませんか?
金具は無理に隠そうとせず、自然に見せるようにしましょう。
- 掛け軸の周囲を飾り過ぎていませんか?
掛け軸の周りに、ごてごてと人形やら写真やら壷やらを置いていませんか?
賑やかになりいい事ですが、これでは主役の掛け軸の本来の良さが発揮できません。
もし、掛け軸の周りに何かを置くとしたら、控えめに掛け軸に合った一輪挿しなどを飾りましょう。
- 同じ掛け軸を掛けっぱなしにしていませんか?
水墨山水などの、「年中掛け」は決して一年中掛けられるという意味ではありません。
「年中掛け」とは一年の内、どの季節でも掛けられる事ができます、という意味です。
一年のうちに春夏秋冬とお正月の5回掛け替えるのが理想と」されています。
掛け軸を掛け変えて、掛け軸にも休息を与えてあげましょう。
季節感のある軸に花を合わせ、立体的に四季を表現したり、書画の意味に呼応する小物を合わせて飾ったり。
こうした「遊び」が、掛け軸をさらに楽しいものにするでしょう。